2.遠くの大病院より近くの中小病院へ、総合病院よりかかりつけ医へ
私は、内科専門医です。まずは私の自慢話から始めましょう。
大腸癌検診の二次検診用紙を持って来院された患者さんです。
型通り大腸ファイバー検査の予約をして帰ってもらっても間違いではありません。
お腹をさわってみると、動脈の拍動が少し強いようです。
改めて話を聞くと、最近少し体重が減っているそうです。
甲状腺が少し大きいので、血液検査をしてみると、甲状腺機能亢進症でした。
大腸ファイバー検査は後回しにして、甲状腺機能亢進症に必要な検査を予約して帰っていただきました。
原因不明の腹痛を訴えている若い男性患者を紹介するとの電話をもらい、玄関で待ち受けました。
病棟へ上がる前に、緊急の内視鏡検査や処置が必要かどうか確かめるためです。
来院されて話を聞くと、数日前からのどの渇きと腹痛が出現したとのことです。
その場で動脈血を採取して血液ガス分析と血糖検査を行い、糖尿病性ケトアシドーシスで危険な状態と診断しました。
インスリンが必須の糖尿病の初発症状でした。
入院後ただちに治療を開始し、危険な状態を脱しました。
吐き気で食べられなくなった女性が紹介で入院されました。
話を聞くと、数日前から急に吐き気がするようになり、食べられなくなったとのことです。
しかし、腹痛はなく、腹部の触診でも異常を認めません。
血中カルシウムを測定したところ、高カルシウム血症を認め、これによる吐き気と診断し治療開始。
その後の検査で、原発性副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症と診断しました。
これらは、いずれも消化器疾患を疑われて来院した方ですが、実は内分泌・代謝疾患であった例です。
このような症例を経験すると、自分も内科医として一人前になったなとうれしくなります。
このような症例は、内科が消化器科と内分泌・代謝科などに専門分化された大病院を受診すると、診断がつくまでに時間のかかることがあります。
まず消化器科を受診すると、消化器の検査が優先されて行われることが多く、それから他科依頼という手続きになるからです。
患者さんの中には、何かあるとすぐに遠くの大病院を受診する方があります。
しかし、近くの中小病院にこそ、研修を終えた一人前の医師が赴任していることを知っていただきたいものです。
また、中小の病院では、予約なしですぐに検査ができて、診断がはやくできるというメリットもあります。
高齢の患者さんの中には、複数の開業医や病院に通院している方もたくさんあります。
そのために病気が悪化した例を挙げましょう。
高齢女性が1か月も続く頑固な下痢を訴えて来院されました。
発熱と脱水状態を認め、嫌がられるのを説得して入院していただきました。
前処置なしで即日大腸ファイバー検査をしてみると、偽膜性大腸炎という病気でした。
この病気は、抗生剤を使用した後に生じる菌交代症という病気のひとつで、下痢止めで悪化します。
重傷の入院患者では珍しいものではありませんが、外来患者ではまれな疾患です。
大腸ファイバー検査をすれば特徴的な内視鏡像で診断は容易です。
話を聞いてみると、開業医2件と総合病院の脳外科と耳鼻科の計4人の医師から常時投薬を受けているとのこと。
今回の下痢に対しては、治りが悪いのでかかりつけの開業医以外に病院の内科も受診したりして、結果として抗生剤と下痢止めを乱用したことになったようです。
脳外科と耳鼻科の処方薬は、はっきり言ってやめても差し支えないような薬でしたが、患者さんに不安を与えないようとりあえず続行。
輸液とバンコマイシンという抗生剤の内服で、1週間後にはすっかり回復されました。
今後は、かかりつけ医1か所のみに通院して投薬を受けるよう退院時に指導しました。
脳外科や耳鼻科などの専門科は、必要な時に紹介状を書いてもらって受診するよう指導しました。
開業医、近くの中小病院、紹介型の大病院には、それぞれ異なる役割があり、診るべき患者さんも異なっています。
何かあれば気安く近くの病院を紹介してくださる、そんなかかりつけ医を作っておくのが最も大切です。