3.医療関係者の方へ・・・癌の告知と医療不信に関する随想
「医師は善意のうそをつくもの」という認識が日本の国民にはあります。
その代表的なことが癌の非告知でしょう。
しかし、このことが国民の医療不信の根源につながっていると思います。
良性疾患で何ら隠していないにもかかわらず、「医師にうそをつかれているかもしれない」と疑心暗鬼になり、カルテを見せてほしいと要求する若い患者さんがありました。
「医師は基本的に患者に真実を話すもの」という国民の認識ができるまで、根強い医療不信は除かれないような気がしています。
ここまで読まれると、私は癌の100%告知派かと思われるかもしれませんが、そうではありません。
これまで癌の告知というと、本人の死に対する恐怖を第一に考えていました。
ところが、自分が癌になってみると、意外と死に対する恐怖は感じませんでした。
病状がさらに悪化してくると変わるのかもしれませんが、今までのところはほとんど感じません。
泣きたくなるのは、親しい人達との別れを思う時です。
私は非小細胞癌の多発脊椎転移ですから、現在の医学で治癒させることは不可能です。
もし、発病が10年遅く子供達が高校を卒業していれば、PS1)の良い今の時期に退院して、夫婦で過ごす時間を優先したかもしれません。
私が入院して化学療法を受けている理由はいろいろあります。
◯化学療法により長期生存例も皆無ではない。
◯最新の化学療法を受けることで医学界に恩返しができる。
◯入院治療を受けて生きていれば傷病手当金や入院保険金などの収入がある。
このうち最も大きな理由は収入です。
一家の働き手として、最も大きな関心事は家計です。遺される家族が最も心配なのです。
これまで受け持ってきた末期癌の患者さんを思い返してみますと、私と同じような思いだったのかなという方があり、いずれも一家の働き手でした。
世帯主にとっては、自分の死そのものよりも遺される家族の家計の方が気になるものなのでしょう。
従って、一家の働き手が癌になった場合は、告知が必須と考えられます。
告知して、闘病さらには訪れる死への準備時間を確保してあげることが重要だと思います。
注1)PS;Performance Status・・・化学療法を行う際、全身の状態の評価に用いられる用語です。全身状態を5段階で評価します。